ケーキパーティーという”しごき”
4:43 AM | 2012年12月9日

Author: ZOCIE | Category: 雑記 | Comments: None

ケーキ一覧
ケーキパーティーについて真剣に考察して言葉にまとめた。
原稿用紙14枚分なので読む人は覚悟するように。

以下、下級生に対する「上級生」という言葉は、1,2年程度上の先輩を指すものとする。


私が今大学で所属している漫画研究会には”ケーキパーティー”という行事がある。
毎年12月の第2週頃に新入生から修士2年生まで部員全員が部室に集まり
”全員がケーキを1ホール持ち寄って、全員で食べる”
という至極シンプルなイベントである。

…とまあお気づきだとは思うが
つまり単純計算で1人1ホール分のケーキを食べる行事なのだ。
一人で1ホール分のケーキと言っても実感が湧かないと思うが
どんなにおいしいケーキであってもこれは相当辛いことなのだ。
具体例として個人的な感想を挙げると、1ピースを1/6ホールとして
2ピース分で満足。3ピースで若干気持ち悪い。という感じである。

とても楽しいイベントであり、部員は毎年みんな楽しみにしているのだが
ケーキをたくさん食べるのは辛い事なんだという事を前提に
これからの文章を読んでいただきたい。


ケーキパーティーには3つのステップが存在する。


1つ目は”開始ステップ”である。
これはケーキパーティー開始直後、
全員が一斉にケーキに貪りつくステップである。
ケーキパーティには1人1ホールのケーキを全員が持ち寄るわけだが
どれもこれもおいしそうなケーキばかりでいつも目移りする。
当日は昼食を抜いてくるように言ってあるので、空腹も相まって
食べたいケーキをひたすら食べるという、パーティーで一番幸せな時である。
ちなみにケーキが”おいしい”と感じるのはここまでである。
悲しい事に20分程度でこのステップは終了する。


2つ目は”強制ステップ”である。
全員が一通りケーキを食べて満足すると上級生が下級生にケーキを食べさせ始める。
「あれ、○○君のお皿空いてるね。ケーキ持ってきてあげるよ」
とまあ飲み会におけるアルコールのようにケーキが扱われるステップである。
しかしアルコールとケーキは様々な面で全く別物でありそれが非常に面白い。
その違いに関しては後述する。

後輩は先輩に持ってきてもらったケーキを食べない訳にはいかず、
気持ち悪いながらも皿に盛られたケーキを食べ続ける。
上級生は後輩と一緒に食べたり食べなかったりである。
ゲームをやったり世間話をしたりしながらダラダラ食べ続けるので
このステップは2時間以上続く。
下級生には地獄以外の何物でもない。


3つ目は”片付けステップ”である。
2時間以上ダラダラ食べ続けるとほぼ全員が気持ち悪くなり、
誰もがこれ以上ケーキは食べられない、という状況になる。
特に新入生は強制ステップでしこたまケーキを食べさせられているため
ほぼ限界を迎え、皿に少しケーキを残して俯きうなだれている様子が毎年観察できる。

ここで恐ろしいのが、全員が「これ以上ケーキは食べられない」と思っていても
ケーキは全て無くなって”いない”のである。
中の密度が高く、甘ったるさに舌が痙攣するチョコレートケーキ
スポンジを恨み、生クリームを呪う、気持ち悪さが加速するショートケーキ
上級生の手違いで会場に紛れ込んでしまったまんじゅう、おはぎ、団子などの和菓子
タルトなどのさっぱりした柑橘系ケーキは早々に姿を消し
これらがテーブルに鎮座しているケースが多い。

しかし大地のめぐみを無碍にするわけにはいかない。
命あるものは死を迎えるのと同様に
買ってきたケーキもまた誰かが食べなければパーティーは終わらないのだ。
ここで始まるのは男と男のプライドをかけた仁義無き戦いである。
誰かが食べなければならない、という状況を強制的に作り出すために
上級生下級生関係なく生クリームで生クリームを洗う争いが始まるのである。

私が好きなのは「いちごじゃんけん」だ。
1つのショートケーキを前にして2本先取のじゃんけんを行う。
勝者は苺だけを食べることができ、敗者が残りを食べる。
じゃんけんに自信のある者が、海の底に沈めたい相手に勝負をふっかける過程、
手に汗握る頭脳戦は何度見ても面白い。
敗者のペナルティが目も当てられないほどえぐいのも面白い。

要はこのステップは格闘ゲームやカードゲーム、麻雀などで敗者を生成し
敗者がケーキを片付けるステップである。



以上がケーキパーティーの一通りの流れである。
この行事を通じて新入生はサークルの一員となるといっても過言ではない。
ほとんどの上級生もこのイベント後には
新入生に対して同じサークルの一員であるという認識を強く持つようになる。

そもそもウチの漫画研究会は部員として認められるまでの敷居がかなり高く、
部員の様子を見ていると、新入生に対しては半年経っても
あくまで”他人”というような接し方をしている人が多い。
新入生もまた普段は部室にある漫画を読んだり、同級生と遊んだりするだけで
先輩との距離を積極的に縮めようとする者はあまりいない。

新入生と上級生、お互いがなんとなく顔と名前を覚えたかな
というような頃合いのこの時期にケーキパーティは行われる。
何故こんなイベントによって急激に新入生と上級生の間の距離が縮まるのか。
ここでケーキパーティの”しごき”としての面に注目したい。


”しごき”とは多くの体育会系の部活やサークルにおいて行われる
先輩が後輩に対して年功序列制度を叩き込む、言わば通過儀礼である。

私は中学生時代野球部に所属していたのだが、当然”しごき”という文化は存在していた。
この”しごき”を通して新入生は先輩の言う事を素直に聞くようになり
また小学校最高学年をひきずっていた者も晴れて中学1年生となるのである。

”しごき”といってもその形は様々である。
野球部では、練習時間外に延々グラウンドを走らされたり
部活で行う練習とは関係なく遊びで使用した大量のボールの片づけを命じられたり
昼食時に部室に呼ばれ一発芸をさせられたり、まあ散々であった。

こういった一般的な”しごき”には問題点がいくつもある。
例えば「練習時間外に延々グラウンドを走らせる」という”しごき”は
スタミナに自信のある新入生には通用しない。
それどころか帰って涼しい顔でこなされると上級生としては「ぐぬぬ」という感じだ。

またあまりに理不尽な”しごき”は必ず後輩の反感を買うことになる。
表面的にだけ従順な後輩が出来てもチーム全体の結束は強まらない。
これには「先輩も同じしごきに耐えてきた」と後輩が実感できない事に原因がある。


ここでケーキパーティーの”しごき”としての面を見てみる。
「気持ち悪い」と言っている新入生に無理やりケーキを食べさせるという行為は
まさに”しごき”そのもの、上級生の命令は絶対だという事を体に叩き込む行為である。

ここで先ほど挙げた”しごき”の問題点と照らし合わせてみる
『スタミナのある新入生に走らせるという”しごき”は通用しない』と書いたが
「ケーキを食べさせる」という”しごき”が通用しない新入生は100%居ない。

毎年「ケーキはおいしいものであり、好き」という新入生がほとんどで
ケーキなら1ホールくらい食べられるだろうと自信満々で参加する人が多い。
しかし「そんなに辛いんですか?ペロっと行けそうですけど」言っていた新入生も
多くとも2/3ホール程度食べたあたりで口を紡ぐのがお決まりである。

どういう形であれ
「自信満々で臨んだのに通用しなかった」という経験は人を丸くする。
ウチの漫画研究会では麻雀やTVゲームでその過程を踏む人が何人かいる事もあるが
やはり運や流れの絡むゲームでは伸びきった鼻を完膚なきまでにへし折る事は難しい。
本業の漫画の腕でも、1年生で甲子園で投げているピッチャーがいるように
新入生の中に、一線で通用するような絵のうまい人が出現しないとは言えない。
悲しい事に漫画で年功序列を叩き込むことも難しいことなのである。

そういった点でケーキパーティーはどんな新入生にも確実に年功序列を叩き込み
少し尖った新入生も確実に多少は丸くなるイベントなのである。


また『理不尽な”しごき”は反感を買う』と書いたが
ケーキパーティーには理不尽さが全くと言っていいほどないのである。

まず”パーティ”なのだからそもそも顔を出すことに抵抗がない。
新入生は自ら進んでその会に参加しているのだ。
また参加条件は”ケーキを1ホール持ってくること”なのだから
割り算のできる人なら1人1ホール程度食べなければならないという事実もまた
全員が認識として確実に持っており、その認識は間違っていないのである。

残飯を出してはならないという事も至極当たり前の事である。
普通の情操教育を受け、小学生程度の道徳観念があれば誰でもわかる事だ。
(だから「最初から用意してあったまんじゅうを終盤冷蔵庫から取り出す」のはいいが
 「追加でまんじゅうを買ってきて新入生に渡す」というのは理不尽さを産むので
 やめた方がいいと私は思う)

また「理不尽さ」は「自分たちだけ辛い目に遭っている」
という認識から生まれることが多い。
実際に”しごき”が代々受け継がれているものであったとしても
”しごき”が同時に発生していない以上「自分たちだけ」という認識はぬぐえない。

しかしケーキパーティの重要なところは、「先輩も辛い」という事実だ。
量は新入生に勝るとも劣らず、上級生もまた
そのまた上級生に命じられるままケーキを食べるし
”片付けステップ”では上級生下級生関係なく限界に立ち向かう事になる。
「自分も辛いけど同級生も辛いし先輩も辛そうだ」
という認識を持たない新入生はほぼいないと思う。
(以上の理由からパーティ中盤から終盤にかけて
 「自分も食べているぞ」と新入生にアピールすることは非常に重要だと私は思う)
「何故自分だけこんな辛い目に遭っているんだ」
という理不尽さはケーキパーティーでは生まれにくい。

それどころか先輩や同級生と一緒に擬似的な困難に立ち向かい
一緒に共通の敵を倒す事が、強いつながりと一体感さえも生み出すのだ。
理不尽による背離のリスクを冒してただ新入生を従順にする”しごき”とは違い、
ケーキパーティーが新入生と上級生の距離を一気に縮めるのはここに理由がある。


ここまで”しごき”としてのケーキパーティーの利点を挙げてきたが
ケーキパーティーの利点はなんとこれだけではない。

今まで言った事をひっくり返すようだが
そもそもケーキパーティは”パーティ”であって”しごき”ではないのだ。
「辛いけどそこまで辛くない」
「そこまで辛くないけどめちゃめちゃ辛い」
という絶妙なバランスを保っているのである。
滅茶苦茶な事を言っているように聞こえるかもしれないが
ケーキパーティーに参加した事のある人ならこの言葉の
意味するところを理解してくれるだろう。
「ケーキ」という食べ物がそのバランスを支えているのだと考える。

まず大きいのは
ケーキはアルコールと違いどれだけ食べても病院に送られる事は無い。
ざっくりネットで調べた結果だが、ショ糖の致死量は1kg程度で
ショートケーキ約4,5ホール分に相当するようだ。
間違いなくそれだけ食べると昏睡より先に嘔吐が訪れる。

また限界が来るのが早い。6,7ピース食べると相当きつくなる。
そして限界は越えようと思えば、比較的簡単に越えられる。
「もう食べられない」という状況は割と早い段階でやってくるのだが
そこから後5,6ピースは確実に食べられる。何故か。
「もう食べられない」という気持ちが満腹から来るものではないからだ。
甘いものを食べ過ぎて気持ち悪くなっているだけで、
「もう(甘いものは)食べられない」が正しい状況なのだ。
現に限界を迎えた新入生にフライドポテトやポテトチップスを与えると
それまでの通夜の様な面持ちが嘘のように輝いた眼で手を伸ばし始める。

つまり限界状態は言い換えれば「無理すれば胃には入る」という状態なのである。
「デザートは別腹」に溜まっているのであって胃の容積とは関係ないのだ。
この「デザートは別腹」という言葉の意味を1年に1回この日に実感できるのは面白い。

「これ以上は無理です本当に、勘弁して下さい」と言っていた新入生も
塩気のあるものは食べられるという事実を突きつけられると
ケーキも頑張れば胃には入れられるという事実を認めざるを得なくなり
結果限界を越えて再び食べ始めるのである。

そして限界を越えても満腹に到達することはほぼ無いので
アルコールの場に比べれば嘔吐は圧倒的に少ない。
過去のデータは無いが年に1人出ることの方が少ないのではないだろうか。



私はこの限界を乗り越える経験こそが
新入生とサークルの一員の認識を分けるわかりやすい敷居だと考える。

あくまで個人の感想になってしまうが
限界を越えた新入生には「根性あるな」と一目置くようになる。
ケーキに揉まれ、過去の自分たちと同じように試練を乗り切ったという事実も
仲間意識を強め、今度から今まで以上に親しくしようという気持ちになる。

新入生にもおそらくこの日を境に
部への帰属意識が強まっているように思う。
前述した通り自信を打ち砕かれながらも
なんとか限界を越え、乗り切ったという経験が
新入生には大きなスパイスとなっているのではないだろうか。


とまあケーキパーティはこのようにいいとこ尽くめであり
奇跡的なバランスの上に成り立っているイベントなのである。

20年以上このサークルで毎年行われているようだが
これからも絶えることなく続けていってもらいたい、いいイベントだと思った。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

  プロフィール  PR:無料HP  大宮自動車教習所  請求書買取 手数料  プログラマー 専門学校  トキコ  タイヤ 交換時期  タイヤ フィット 激安  美容 学校  5ZIGEN  タイガーアイ  東京物流  投資顧問ベストプランナー 勝率  中古タイヤ 越谷  バイアグラ 通販